タクシー全面禁煙へ:自主的な動きが全国に広がる
日本でも県単位の禁煙タクシーの動きが広まっている。本来は国か地方自治体が禁煙法(条例)を定めて国民に
強制すべきべき事柄であり、先進諸外国では罰則規定を設けてタクシーなど公共的閉鎖空間での喫煙を厳しく
取り締まっている。しかし、日本では行政のタバコ対策は遅々として進まず、今進行しているタクシー全面
禁煙化は裁判所の司法判断を契機に業界が自主的に行っているものである。
名古屋市・近郊
こうした中、民間のタクシー業界全車禁煙の方針を決定した。名古屋地区(名古屋市と近郊市町村)でタクシー
8000台の全面禁煙が2007年5月よりスタートした。2005年12月、東京地裁のタクシードライバーが受動喫煙の
損害賠償を求めた訴訟で「タクシー業者は受動喫煙から運転手の健康を守る義務を負う」との判決が下された。
こうした司法判断に業界としてもこれを無視することが出来ず、受動喫煙防止を意図した健康増進法の規定に
違反してまでも営業することは出来ないとの判断があったようだ。病院敷地内の全面禁煙や乗客からの「車内が
タバコ臭く、気分が悪くなる」との苦情が相次いでいることも全面禁煙決定の追い風となった。ただ法的規制
処置ではないので、なかには「喫煙可」とした表示をタクシーに貼り、(無知からか)自らの健康を犠牲にして
喫煙者を取り込もうとする造反組もあるようである。
全国最初といわれるタクシー全面禁煙についての反応は様々であり、日本人の喫煙行為や受動喫煙に対する考え方
をそのまま反映している。「先進国ではタクシー内での禁煙はあたりまえのこと、遅すぎたくらいだ」との声がある
一方、「名古屋だけ全面禁煙なのは不公平」と、乗客とドライバーの健康のため非常に良い取り組みしたことを
貧乏くじを引いたように言う女性もいる。タクシー業界では「応接マニュアル」を定め、「乗客が外での喫煙した
時に携帯灰皿を渡す、傘を用意する」など日本らしい気配りを見せている。
タクシー全面禁煙について、中日新聞社常務・編集担当、喫煙習慣者の小出宣昭氏が4月29日の朝刊で「決め方に
いささかの薄っぺらさを感じる」とし、タクシーは「個別選択的な乗り物であり、私的空間である」「全車禁煙と
いう一律主義に本能的な危険を感じる」と書いた。この意見に対する筆者の反論である。
国民を受動喫煙の被害から守る目的で「健康増進法」が施行されているが、この法律に基づいた決定が何故
「薄っぺら」なのか。タクシーは公共的乗り物であり、室内の空気(80%の窒素、20%の酸素)の中で呼吸して
いる。それは個別の乗り物ではなく、共有した乗り物なのである。「人を殺してはならない」とは社会の決め
られたルールであり、そのルールに全体主義的な傾向は全くないと誰もが認めている。
大分県
大分県では2007年6月からの2800台タクシーを全面禁煙化した。大分市内では2007年年4月に営業するタクシー
1000台が先行して禁煙を実施したが、「嫌な臭いがなく気持ち良く乗車できる」など利用者の評判も良い。
他の地域のタクシーも禁煙に同調し、大分県が日本最初の県単位のタクシー全面禁煙施行自治体となる。2007年
6月、奈良女子大の高橋裕子教授らが1890人(非喫煙者1126人、喫煙者764人)を対象とした調査を行ったが、
「全車禁煙タクシーになって良かった」と思う人は、非喫煙者の95%、喫煙者の43%にも及んだことが判明した。
タクシー全面禁煙化をきっかけに、喫煙者の4人に1人は「自ら禁煙しようと思った」と答え、住民の禁煙
意欲を]促す効果も見られている。
香川県
香川県内のタクシー会社で作る県乗用自動車協同組合は2008年3月から、加盟する94社,計1696台すべてで
全面禁煙を実施する。個人タクシー145台も賛同する意向を示しており、県内を走るタクシーでは事実上、
タバコは吸えなくなる。タクシーでの全面禁煙は四国で初めてである。
長野県
長野県内で営業する約3500台のタクシーが2007年6月に全面禁煙となった。健康増進法に基づいた措置で乗務員
の健康保全とタバコのにおいを嫌う利用客に配慮した決定である。都道府県単位での全面禁煙は大分県に次いで
2例目の快挙である。
神奈川県
神奈川県では法人タクシーが全面禁煙に踏み切った。個人タクシー協会も車内禁煙を決定、2007年7月から県内、
約14000台のタクシーが全車禁煙となった。利用者から「車内がタバコ臭い」などの苦情が寄せられている
ことや、タバコ副流煙から乗務員の健康を守るために決まったものである。売り上げ減少を危惧する意見も
あったが、喫煙車と禁煙車を混在させず、全車禁煙ならば売り上げは変わらないとの理解で実現にこぎつけた。
車内にある灰皿はすべて撤去する。乗客が喫煙を望んだ場合は車を止め、車外でドライバーが用意した携帯灰皿を
使ってもらう。
静岡県
2007年5月、静岡県タクシー協会総会にてタクシーの全面禁煙提案が承認された。会見した三沢理事長は「乗務員
と乗客の健康を守るのは経営者の責任であり、県民のご理解も得られると思う」と話している。静岡県タクシー
協会と県個人タクシー連合会加盟、6100台の全タクシーの禁煙は2007年8月から実施された。すべての車両に
禁煙化を知らせるステッカーを張り、利用者に協力を呼びかる。車の外での喫煙に対応して携帯用灰皿を用意して
いる。禁煙に賛同せず、喫煙出来るタクシーは約5%である。
山梨県
2007年10月から山梨県タクシー協会は全タクシー約1200台を全面禁煙とした。運転手への健康被害防止と、乗客の
快適性向上を目的に実施する。タクシー協会では「禁煙は時代の流れ、クリーンなイメージで利用アップに
つなげたい」と話している。県単位でのでのタクシー全面禁煙は大分、長野、神奈川の3県では既に実施されて
いる。静岡県は8月から施行、山梨は全国で5番目に公共運輸機関の全面禁煙化に踏み切る地方自治体となる。
富山県
富山県タクシー協会は法人・個人タクシーの車内禁煙を2007年10月から実施した。しかし、禁煙に賛同せず喫煙
出来るタクシーは5%くらいある模様。
千葉県
千葉県の法人、個人の両タクシー協会は、加盟のすべてのタクシー約7600台を2007年11月から全面禁煙にした。
茨城県
茨城県のタクシーは2007 年12月から全面禁煙となった。駅のタクシー乗り場には全車禁煙の看板が立てられ、
後部座席のドアには「禁煙」のsテッカーが貼られた。非喫煙者は非常に喜んでいるとの報道されている。
岐阜県
岐阜県のタクシー約2800台、および愛知県のタクシー(名古屋市を含め)約10000台のタクシーが2007年11月から
全面禁煙となった。
秋田県
秋田県ハイヤー協会(107社加盟、約1720台)は、2007年12月から協会所属のタクシーを全面禁煙とした。
都道府県単位での全面禁煙は東北では初めてとなる。2003年の健康増進法施行を機に、公共機関で禁煙が
広がっていることや受動喫煙が及ぼす運転手への悪影響を重視。車内のタバコのにおいを嫌う乗客が女性を中心に
多いこともあり、全面禁煙はサービス向上もつながると判断した。
埼玉県
埼玉県タクシー協会は5日、協会加盟社210社の全車両約6500台について2008年1月から全面禁煙にすると
発表した。協会によると、個人タクシーと協会非加盟社も賛同する意向で、埼玉県内のすべてのタクシーが禁煙と
なる。タクシーは1都2県間を相互に行き来することが多く、東京湾をとりまいて全面禁煙の輪が形成される。
宮城県
宮城県タクシー協会は、2008年度にも県内で営業する約4700台のタクシー車両をすべて禁煙車とする方針を
固めた。決断の背景には、禁煙しても利用者は減らないことが分かってきたことがある。タクシー協会の佐々木
昌二会長は「禁煙化の要望が多く、快適な乗車空間を提供する必要性があると考えた。公共交通機関として
禁煙化の流れに従うのは自然のこと」と話している。
奈良県
奈良県タクシー協会(62社加盟、タクシーは計約1200台)は県内タクシーの全面禁煙化を決めた。2008年5月
に実施したいという。近畿地方では初めてとなる。池田協会会長は「観光客が多い県なので、クリーンな空気で
おもてなししたい」と話している。
和歌山県
和歌山県内のほぼすべてのタクシーが2011年1月から全面禁煙になった。タクシーの禁煙化が全国的に進む中、
和歌山県は実施していなかった。禁煙にするのは、県タクシー協会(80社、1745台)と県個人タクシー協同組合
(66台)で、窓に「禁煙車」のステッカーを張ったりして乗客に禁煙を呼び掛ける。一旦はクシー乗り場を禁煙車
と喫煙車に分ける「分煙」も検討したが、全国に広がるタクシー禁煙の流れに合わせることにした。協会理事は、
和歌山の利用者の平均乗車距離が約4キロと近距離利用が多いことをあげ、「喫煙者のタクシー離れが
懸念されたほか、飲酒した喫煙客とのトラブルも心配だった」と実行の遅れた理由を説明した。
引用:共同通信、他 2011年1月5日
他の都道府県
上記地方の他にも、新潟県、群馬県、福井県、福島県、栃木県など全国各地で追随の動きが拡大している。
本来は政府・地方自治体が決めるべきこと
すでに、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージランド、イギリス、フランス、イタリア、台湾、タイなど
多くの国では、政府主導でタクシー車内での喫煙を禁止している。先進国の喫煙行為に対する目は厳しい。
フランスのタクシー内で、日本人乗客が喫煙を始めた直後、運転手はどしゃ降りの雨の中でサンルーフを開け、
タバコを吸っていた乗客がずぶぬれになったとの実話もある。
一方、2008年1月から東京のタクシーが全面禁煙となることを伝え聞いた国土交通省(公明党、冬紫鐵三大臣)は、
公式見解として「一部喫煙車を残す事も検討しなくてはならない」と発言している。国土交通省は国として乗務員
および乗客の健康を配慮し、公共交通機関の全面禁煙化を促進すべき立場にあるのに、さらに「国土交通省は国家
として禁煙タクシーを推進することはしない」と明言している。多くの日本人にはタバコ危険情報を無視する
風潮があり、日本の未来を担う政治家には将来を予測する分別がないようだ。
先進国では政府主導で公共運輸機関の全面禁煙が実行されているが、日本の政治家には物事を判断し、国民を
誘導する資質が欠如している。自動車の排気ガス問題であれだけ力を入れた東京都だが、タバコ問題には関知せず
との姿勢を貫いているのはおかしい。しかし、こうした無能な官僚たちに頼らない、地方から発動された民間
主導型の健康への取り組みが、やがて日本全土に浸透して行くことを期待し、今後とも注目して行きたい。
Total Smoking Ban in Taxis: Recent Trends in Japan
タクシー全面禁煙へ:自主的な動きが全国に広がる
2007年5月執筆 2008年月2月加筆 2009年月12月加筆 2010年月7月英文加筆
2017年2月レイアウト変更
執筆 医学博士 宮本順伯