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日本でも全面禁煙の列車が普通となる時代に入りつつある。2007年3月に日本の東半分で特急列車や
新幹線の全面禁煙化が一気に加速した。全面禁煙となったのは、小田急電鉄が運行する特急「ロマンスカー」、
特急「スペーシア」など東武鉄道が運行する全特急列車である。JR各社も、新幹線や特急列車の全面
禁煙化や禁煙車両を拡大した。JR東日本は2007年春から、在来線の特急車内、東北、上越、山形、
秋田の各新幹線を全面的に禁煙にして運行している。
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小田急電鉄や東武鉄道は、JRの特急列車と相互乗り入れしており、JR東日本の全面禁煙化への方針転換
に合わせた。小田急電鉄広報部では車両間の仕切り扉の開閉で喫煙車両の煙が禁煙車両に流入すると、
非喫煙乗客から全面禁煙化を求める声が高まっていたと話す。乗車時間は長くとも85分程度と短く、
喫煙者にとっても耐えることが出来る範囲と判断した。
東武鉄道では日光・館林方面などの特急列車を全面禁煙とする。禁煙車両と喫煙車両との仕切り扉の開閉に
より、禁煙車に流入するタバコのにおいや煙に乗客から苦情が出たことから、禁煙化に踏み切った。
西武鉄道の特急レッドアロー号は、2006年10月から全車両が禁煙車となっている。受動喫煙防止のため、
西武鉄道全駅と全車両で喫煙行為を禁止、喫煙コーナーをホームおよび車両内に設置していない。これで、
特急列車に喫煙車両を存続させる首都圏の私鉄は京成電鉄のみとなったが、これも廃止された。
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今まで、東京都心と成田空港を60分で結ぶ「京成スカイライナー」には、最前部と最後部にそれぞれ
1両ずつの喫煙車両を連結、成田空港切符売場で「smoking seat?」と聞いている。列車内の全面禁煙は
すでに「当たり前のこと」となっている先進国からの乗客は、ここで必ず「なぜ」といぶかるであろう。
京成電鉄では車掌や列車警備員がタバコ病に罹患する危険性を無視している。競合しているJRが全面
禁煙になった今、喫煙車両を廃止しても営業上不利にならないことが明白であるにも拘わらず、全面禁煙
としなかった。
京成スカイライナーの利用者は2007年8月に1億人を突破した。少なくともその25%の乗客、2500万人
が喫煙車両を利用した計算となるが、その間に喫煙車両内で、それだけ多くの喫煙者が副流煙により
相互に健康にダメッジを与えられていたのである。電鉄側はあくまでもサービスと考え、乗客に健康
被害を与えていたことを認識していなかった。それはサービスではなく、判断能力の低い乗客に有害
廃棄ガスを与える場所を提供していることに他ならなかった。
2010年に成田新高速鉄道を経由した新型車両を開発中と伝えられているが、当然、喫煙空間を排除した
全車禁煙車両とすべきであろう。
追記:スカイライナー特急の喫煙車両は2010年3月末に廃止された。
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2007年3月からJR西日本は、「北近畿」「文殊」、関空特急「はるか」といった、乗車時間が3時間
未満の特急列車を全面禁煙化したこの他、全面禁煙となるのは北越特急(金沢〜新潟)など10本のほか、
朝夕に福井〜富山などを運行する通勤特急「おはようエクスプレス」「おやすみエクスプレス」などである。
乗り入れているJR東日本が、3月から新幹線と在来線特急の全車両を禁煙とするため喫煙規制方針を
合わせた形だ。
しかし、大阪始発の特急「サンダーバード」、「雷鳥」、名古屋発着の「しらさぎ」、越後湯沢発着の
「はくたか」などなどには喫煙車両を残すようだ。「今後は長距離の特急列車も全面禁煙化を進める予定」
とのことだが、JR西日本の受動喫煙認識はまだ甘い。その顕著な実例はJR東海と共同運行している
新幹線N700系電車だ。
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JR西日本はさらにJR大阪駅改札口際に女性専用の有料化粧室(ANGELBE) を新設している。JR
西日本では20代、30代の女性を顧客とし、「化粧を直してリフレッシュして欲しい」と言っている。
問題はなぜ、子供を産み育てる女性の部屋に立派なSMOKING ROOM(喫煙室)を設けているかだ。
欧米では閉鎖された駅構内に喫煙する場所はない。それは乗客の健康を守るための規制である。女性
利用者をタバコ毒にさらして、それがサービスだと考えている。JR西日本はあの痛ましい福知山線の
脱線事故で多くの人命を奪ったが、人間の健康を軽視した体質がまだ社内に根をはっているように思われる。
JR東海は受動喫煙の有害性について全く意に介さないようだ。日本禁煙学会からの公開質問状に対し、
「タバコの嫌いな乗客と喫煙を希望するお乗客双方への配慮が不可欠なので、現在1列車に3両以上ある
普通車指定席については,喫煙車両を残す」との考えを表明している。タバコは「好き嫌い」の問題
でなない。JR東海はタバコ副流煙の発癌(がん)性を含む健康障害を完全に無視している。JR客室
乗務員やJR車内販売員を病気にしても良いのか。「喫煙車指定のこども切符」を発売し続けるのか。
禁煙車がいっぱいで、やむなく喫煙車に乗らねばならないときに引き起こされる乗客の健康障害に対し、
JR東海に賠償責任はないのか。このことはJR西日本についても言える事柄でもある。
2007年JRの禁煙車両・喫煙車両に対する方針
2006年12月執筆 2007年1月加筆 2008年11月加筆
2010年4月修正記載
執筆 医学博士 宮本順伯