BS 朝日ニュースター報道特集「喫煙大国ニッポンの行方」
ゲスト 医学博士 宮本順伯
Dr.Miyamoto talks much a smoking control in Japan
at a studio of Asahi BS Televison.
February 25, 2003
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「朝日ニュースター」はスカパー!とケーブルテレビ局等で放送されているニュース専門チャンネルで
ある。朝日新聞のグループ会社で東京都中央区築地、朝日新聞本社内に放送局を設けていた。
討論番組を主に放送していた。その後移転し、現在、渋谷区神宮前のBSビルにある。
今はニュース以外の番組も放送している。
2003年2月25日のBS報道特集「喫煙大国ニッポンの行方」に筆者がゲスト生出演した。最近、改めて、
そのコンテンツを検証したが、その時に交わされたタバコに関するやりとりは、今見ても少しも遜色がない。
以下、放映されたビデオの内容の一部始終を紹介する。
発言者を色別に表示している。
● 遠藤正武
● 架谷千草
● 宮本順伯
BS放送 「喫煙大国ニッポンの行方」
2003年2月25日に放送されたBS番組
●今晩わ。遠藤正武です。
●架谷千草(はさたに ちぐさ)です。
●タバコを吸われるでしょうか。やめたいと思っても、やめられない人は多いと思います。日本の
場合は(タバコは)安い。イギリスの場合は20本入り1箱、1,000円くらい。
●そんなにするんですか?
●アメリカの場合は800円くらい、場所によって違います。日本では自販機でいつでも買える。
未成年者でも買える。タバコの箱の警告文に「吸い過ぎに注意しましょう」と書いてあるが、欧米の
ほとんどの国では「タバコを吸えば癌(がん)になる」と書いてある。直接的な表現で書いてるん
ですね。そういう意味で日本はタバコ天国なんだけども、今現在ですね、ジューネーブで世界保健
機関、WHOというところで、タバコを制限しましょうと、世界のほとんどの国が集まって協議して
いる。日本も加わっているので、ひょっとしてタバコ天国がもうおしまいになるかも知れない。
他の国に比べタバコが簡単に手に入って値段的にも疑問ですよね。そういうことで、「喫煙大国
ニッポンの行方」という題でお送りして行きます。禁煙環境が世界的に広がる中、日本は逆行する
ように喫煙大国を築き上げております。
●今夜は無煙環境を推進する医学博士の宮本順伯さんに、日本に於ける喫煙者優先の社会構造と、
そして背後にある事情と現状についてお話しをお伺いいたします。
●先ほどお話したように、WHOでタバコ消費を削減することが条約の基本ですが、191の国の中で
日本だけが反対したらしいのですが、それも後で取り下げることになって(全会一致で)結ばれて、
今年の5月に実行に移されることになったということです。
●今日は、こちら「タバコ副流煙の恐怖」を書かれました医学博士の宮本順伯さんに
お話しを伺って行きます。よろしくお願いします。
●今晩わ。ご紹介いただきました宮本順伯でございます。
●宮本さんね、今、ちょっと紹介したように世界191ヵ国が条約を結んでタバコ(消費を)
制限しようと決めることになったんだけれど、日本はしぶしぶだったのですが加盟することに
なりましたが、どうですか、(これで)日本のタバコ天国にかなり影響が出そうですか。
●まあ、影響が出て欲しいですね。日本は世界のタバコ後進国といわれていますからね。
この辺で方向転換して欲しいと思います。
●少し具体的に各国の状況を見ていきたいのですが、タバコの値段ですね、さきほど
ちょっといいましたけれど、日本は非常に安く手に入りやすい。日本にいる限り、20本入り
150円でも毎日吸うわけですから結構高いようですが、これでも安い国に入るのですか。
●タバコの値段を世界的に比べるときに、タバコの値段が安いか高いかということは、
その絶対的な値を比較してもあまり参考になりません。なぜかというと、日本の10円玉を
低開発国に待って行くと、いろんなものが買えるんですね。だから国際的な比較をする
ためには何分間働いたら特定の銘柄のタバコが買えるかを見て行かなければならない
のですね。
マルボロ1箱購入するに必要な労働時間の国際比較
●この図表はマルボロ、一箱を購入するのに必要な労働時間を表しています。
●日本は?
●日本は9分です。ケニアが一番長い。
●為替レートとかいろいろありますけどロンドンでタバコを買うと5ポンド、
約1,000円です。10本入りの箱が出ていますが、20本入りが16本入りとなったりして・・・
●ハハハ・・・、フイルムと同じですね。
●アメリカでも大体20本入り一箱が安くて500円、高いと800円くらいするので、
150円というのは際だって安い。
●私もそう思いますね。
●それにタバコの害があるとの表示がありますよね。これも各国によって違う。日本では
「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」と書いてありますが。
●タバコのもとはニコチンなんですよ。ニコチンには依存性がありますので吸い過ぎるように
出来ているのです。
●こちらは私がオーストラリアに行った時に撮ってきた写真ですが。
●喫煙は有害で肺癌の原因です。喫煙はあなたに死をもたらします。
●具体的にこのように表示することが必要と思います。
●あのね、EU、ヨーロッパは去年、「喫煙は死をも招く」との表示を義務づけた。それから
マイルドとかライトとかの紛らわしい言葉は使ってはいけないなど。日本には「マイルドセブン」が
ありますね。それに対し日本の代表は提訴すると言ったのですね。
●そうですね、日本政府はJTを支持しているのか国民の健康を心配しているのか、
ちょっとね。まー・・・皆さんは客観的に見てどう思っていらっしゃるのでしょうか。
●これは答えは明らかだと思いますが。警告表示は文章(の内容)だけではなく、表示面積で
一番よく見えるところ50%の部分に書かなければならない。表だけではなく、裏にも書か
なければならない。例えばオーストラリア。そういった国があるのに、日本の場合は片面に
書いてあるし、文章も実際の危険性が分からないように書いている。そうしたことがタバコの
消費が拡大している主な原因となっていると思います。
●「タバコは死をもたらす」と書いてあれば、なかなか手を伸ばして買えない感じがしますよね。
●もう一つ、CMがありますね。これも日本の場合、テレビでは時間帯の規制があるように
なりましたが。アメリカはだめだ。他の国はどうなっているのですか。
●(日本では)電波上の規制はあっても他の規制はほとんどないわけです。一番厳しいのが
カナダ、オーストラリア、ニュージランドなどですね。全面的にタバコ広告が禁止されているのは
南アフリカ、フィンランド、スウェーデン、タイ国などです。
●南アフリカは、ネルソン・マンデラが大統領になった時にタバコ(の値段)を一挙に85%値上げした
らしいですよ。それで急に消費が減って、特に若い人がタバコを買わなくなって、肺癌の発生率も
少なくなったとう話を聞いています。
●若い人たちの手に届かなくなりますからね。タバコの値段をを値上げすることに、日本の政界は
「庶民の楽しみを奪うものだ」などと反対しておりますが、消費を押さえる最も効果的な方法だと
思います。この前のタバコ増税論議で、タバコ1本1円にするか、2円にするかについて
小泉首相は「2円にしないか」と(言ったと)聞きましたが、これが1円となって今年の夏ころから
値上げするするようですが、根本的な哲学とか理念とかがまるで聞かれないのです。
●最も重視して欲しいのはタバコ税収の数倍の医療費が5年後、10年後にかかって来ること
ですね。その結果、負の連鎖と言いますけれど、タバコ消費の増加に伴って医療費がさらに
拡大して行くことですね。その連鎖を断ち切らねばならないのだけど放置している。不良債権と
同じです。損失がどんどん拡大して行くんですね。
●タバコの自販機ですが、日本独特といっては言い過ぎかも知れませんが、欧米ではタバコ
は自販機ではほとんど買えないです。
●そうですね、イタリアでは1960年代にタバコを自販機で販売することを禁止していますし、
やはり閉鎖空間内でタバコを吸うこと自体がおかしいことです。それは健康上許されない
ことです。ところが日本では百貨店内でも売っていますし、地下鉄駅構内でも売っているし、
路上は勿論です。自販機が氾濫している状態ですね。もう、異常としか言いようがないと
思います。
●経済的損失についてのフィリップがあります。
●これが喫煙による経済的損失ですが、25年以上喫煙していた人の超過医療費が1兆2900億円
なんですよ。この数字は6年前に比べ693兆円増えているんです。受動喫煙による癌(がん)に
罹患した人の医療費が146億円です。この他に受動喫煙によって心筋梗塞で亡くなった人の
医療費がありますが、これは入っていないんですよ。
●受動喫煙について説明してください。
●受動喫煙とはタバコを吸わない人が、他人の吸うタバコの先から放出される煙を吸い込むことで、
病気になることがあります。以前は飛行機(の中)は全部禁煙でなく、タバコが吸えたんです。
飛行機の中で心筋梗塞で亡くなる方もいらっしゃったのですね。(統計には)そうしたタバコの煙で
亡くなられた方の医療費は入っていないんです。受動喫煙のアイデアは病院でも(今まで広く)
浸透していなかったんです。それを考えれば、実際の(統計の)数倍あると思います。
●労働力の逸失利益とはその人が何事もなく最後まで働いたとして得る利益から、喫煙行為に
よって働けなくなったり、死亡したりしたために減少する収入の差を意味します。この損失が
5兆8000億円、これに(タバコの火の不始末による)火災による損失を合わせると、年間7兆3000億円
以上、大変な金額ですね。
●日本のタバコ税収は2兆円くらいですか。
●はい。タバコ関連業種の収入を含めると2兆8000億円となります。それを差し引くいてどのくらい
になるかと言うと、4兆5000億円となります。
●すごい損失ですよね。
●日本はタバコ天国と言われているのですが、日本人男性の49%、女性の10%が吸っているという
数字がありますが、アメリカに比べても2倍以上ですが、実際はもっと多いのですか。
●実際はもっと多いと思いますね。特に若い世代、20代、30代の前半、この世代では男性も女性も
かなり喫煙率が高いです。女性の場合は、私の診療所の統計を含めて考えると、38〜42%です。
●そんなに高いのですか。
●非常に高いです。世界のトップクラスです。
●女性でも?
●そうです。
●男性の喫煙率は世界一とあまり名誉でない数字ですけど長寿も世界一です。けれどもタバコも
世界一ですか。
●今の長寿と言われている人が20代の時はタバコ自販機もなく、すんなりとタバコを買える環境
ではなかったんです。そういうことを考えてみると、今の若い人が高齢者になったときは大変な問題
となると思います。
●タバコの害について「死を招く」とか言われているのですが、タバコの煙の中で特に副流煙が
危険と言われているのですが、この副流煙について説明してもらえますか。
●(タバコの)主流煙と副流煙についてお話ししてみますが、本人が吸い込んでいるのが主流煙、
タバコの先から流れる煙、周りの人が吸い込む煙が副流煙と言われています。有害物質に何が
含まれているかというと、それをこのフィリプに表示してあります。主流煙の中の有害物質より
副流煙の有害物質の方が遙かに多い。
タバコ主流煙と副流煙との有害物質濃度比較
●(タバコの)副流煙のなかには、発癌性物質ニトロソアミンで(主流煙の)52倍、心臓機能に
悪影響を及ぼす一酸化炭素で4.7倍、発癌性の強いベンゾピレンで3.7倍、カドミウムで3.6倍、
血管を収縮させ血流障害を起こすニコチンで2.8倍になるんです。
●これは本人が吸っている煙よりもタバコの先から流れる煙の方が害が大きいということですか。
●はいそうです。そのことを国民の皆様によく認識していただきたい。カリフォルニアとかオースト
ラリアとかの国で飲食店内を全部禁煙とするのは、こうした根拠に基づいているのです。つまり、
吸っている人より周りにいる人の方が健康被害が大きいわけですね。
●タバコを吸っている人は(相手と)談笑しているときにも、しゃべっている間は吸っていない
わけですから、副流煙をまき散らしているんですね。
●そうなんです。私などもレストランでタバコを吸っている男性と親しげに話をしている女性を
見かけるんですけど、(相手が)しゃべっている間にもたくさんの有害物質を自分の肺の中に
吸い込んで蓄積しているのですよ。吸い込んでも直ぐには病気になりません。ですけれど10年後、
20年後に病気になるんですよ。日本医師会でも(ポスターなどで)PRしていますが、喫煙者の
奥さん、勿論吸わない場合ですが、この奥さんの肺癌発生率は2倍になるんです。
●ハー、吸わない人がね。
●もう一つの問題は飲食店とかJRの喫煙車両ですね、喫煙車には車掌さんとか車内販売員が
おりますし、(飲食店の)喫煙席には当然、ウエイター、ウエイトレスの人が働いているわけです。
そういう人たちがタバコ副流煙を吸い込んでやがて病気になる、そうした危機感を全然もって
いないんです。
●列車の喫煙車両って外から見ても煙で真っ白ですよね。
●知識ある喫煙者は「私は喫煙車両には乗りません」、そういっていらっしゃるけれど、
(その中で)お互が健康を破壊しあっていると言っても過言ではないと思います。
●そこで日本でも分煙ということが、やっと言われ出して、具体的には、レストランにも法律的に
規制を加えようという動きがやっと出てきたのだけれど、例えばレストランの客席が50くらい
あるとしますね、そこで分煙するとしたら実際に効果はありますか。
●同じ部屋で仕切ったら全く効果はないと思います。むしろ「禁煙席」を作らない方がよい。
ですからこういうことは、私は条例で規制しなければいけないと思いますね。「喫煙席」と同じ
部屋にある「禁煙席」は条例で禁止した方がよい。
同室分煙は全席喫煙席と同じで発癌物質などが拡散される
●カリフォルニアはアメリカで最も早くから(喫煙を)規制したところですが、あそこも一番
最初は分煙でレストランが100席あれば50席は禁煙とせねばいけないとしたのですが、その後、
直ぐに全面禁煙となったのですね。結局、それは先ほどお話ししたタバコ副流煙の問題なの
ですよ。分煙しても喫煙スペースで働く人々の健康は(今までと)変わらないのですよ。お客さんと
従業員との両方の健康を守ろうとしたら全部禁煙としなければならないのですよ。日本人の場合
は隣で吸っている人に対し、私はいやだから止めてくれと、はっきり言わない国民性が
ありますね。まあ、欧米の人ははっきり言いますが。
●これからWHOでもそういう条約を結ぶことになる、そういう背景があってね、本当に日本が
禁煙問題を国際的なレベルにまでもって行くためにはどうすればよいか。やはり国がやって
くれないと困る。
●勿論そうです。私の強調したいのはタバコを吸わない人の意識改革ですね。タバコを
吸わない人が副流煙(の害)を意識して大きな声で叫ばねば社会はよくなりません。
●今日は大変ためになるお話しをお聞かせくださいましてありがとうございました。
小一時間に及んだ番組は、最後まで聴取者を引きつけたニュースキャスター架谷千草
(はさたに ちぐさ)さん、遠藤正武さんの他、放送局スタッフ全員の暖かいサポートを受け、
成功裏に終わる。
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編集後記
放送のあった2003年2月の時点でのタバコ一箱の値段は約150円で、今の半分の値段であった。今の300円も
安いが、もっと手軽に手に入れることが出来た。タバコの警告表示の「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」
とのタバコの有害性を隠匿した表現は、タバコ規制国際条約に従って具体的な病名などを表示するようになった。
放送当日の日経平均は8,360円で、今の市場と大差ない水準にあった。企業環境の厳しい時であったが、この日の
円相場は117円と円安で80円台と急激な円高が襲っている今ほどの厳しさはなく、日本経済は発展の途についていた。
3月にりそな銀行が発足し、米軍によるイラク攻撃が開始された。健康増進法が施行されたのは2003年5月である。
日本では当時まだ受動喫煙問題がほとんど周知されていなかったが、その時代に放送された画期的な番組であった。
BS放送 「喫煙大国ニッポンの行方」
2003年2月25日にBS朝日ニュースターにて放映された内容を参考に、2008年12月 編集制作 医学博士 宮本順伯
★著作権は宮本順伯に帰属、記事、写真の無断転載禁止
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朝日新聞 私の視点「公共空間・受動喫煙防止法を制定せよ
新聞 Herald Tribune International (ヘラルドトリビューン紙掲載
)
:Japan must move faster on anti-smoking laws 受動喫煙防止法の制定を急げ
2010年 日本禁煙学会シンポジウム(松山)
The Fifth Annual Meeting of Japan Society for Tobacco Control in Matsuyama,
Japan
多くの地方自治体が先行した神奈川県条例と同様の受動喫煙防止条例を制定すれば 日本は世界で唯一「分煙体制」を採用した世界で「最も好ましくない喫煙規制国」となる恐れがあると強く警告
学会: 2013 日本タバコフリー学会総会(東京)
特別講演:宮本順伯「公共的空間を分煙してもタバコの害は防げない。屋内全面禁煙は世界のルール」
日本と先進国とを対比させた喫煙規制政策について
学会: 2015 日本タバコフリー学会総会(松山)2015年9月
特別講演:宮本順伯「喫煙規制:今、世界はどう動いているか」
海外招待講演:メエアリー・アスンタ・コランダイ博士(オーストラリア)
学会:2017 日本タバコフリー学会総会(東京)
:2017年9月
特別講演:宮本順伯「世界の鉄道は完全禁煙」
海外招待講演:Dr.Domilyn C Villarreez(フィリッピン)
Dr. Hong Gwan Seo、Dr. Jak Young Lee ( 韓国)
シンポジウム:東京オリンピック・パラリンピックまでに日本を完全禁煙に
厚生労働省健康局、産経新聞、朝日新聞、他
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