厚生労働省は2005年度、他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙対策などについて、都道府県が
飲食店などに行う指導のアイデアに補助金を出す事業を始めた。都道府県庁舎など、多くの公共
施設では2003年に施行された健康増進法に基づき、全面禁煙としたり喫煙室を設置するなどの
対策が進んでいる。一方、多くの人々が利用するレストラン、カフェ、バーなど飲食店内の禁煙に
対しては経営者の判断に任されており、喫煙する顧客の離散による営業成績の低下を恐れ、
ほとんどの飲食店では喫煙空間を廃止または分離していない。
その背景には、たばこの先から流れる副流煙の成分が、喫煙者の吸う主流煙よりも濃度の高い
有害物質を含み、周囲の人々の健康を損なうことが十分周知されていない社会がある。 副流煙の
毒性は極めて強く、発癌物質、ニトロサミン、ベンゾビレン、カドミウム、タール、ニコチンの濃度は、
それぞれ52.0倍、3.7倍、3.6倍、3.4倍、2.8倍である。非喫煙者が副流煙を吸って肺癌に罹患する
確率は1.9倍、乳癌、子宮頸癌は2.3倍、気管支喘息は2.1倍以上のレベルまで増加する。心筋梗塞
死、流産、低体重児出産など深刻な健康障害は、飲食店利用者のみならず働く従業員にも及ぶ。
副流煙の人体への悪影響が生命に危険性を及ぼすことが明確となったことから、カナダ、米国、
オーストラリア、ニュージランド、ノルウェー、アイルランド、イタリア、シンガポールなどの
国々では、レストラン禁煙条例を制定し、人々を「たばこ病」から守っている。
一方、国内の飲食店利用者は、たばこの煙に含まれる粉塵の有害性を軽視している。喫煙者は
全席禁煙の店を利用出来ないが、吸う人と副流煙について無知か無頓着な吸わない人の双方が、
禁煙でない店で飲食しているのだ。健康増進法施行当時に全席禁煙の設定行った店には、
こうした理由から不完全な分煙方式に逆戻りしたところが少なくない。
食品衛生法に基づき飲食店の開設には所轄保健所の認可が必要である。滋賀県では、申請に
基づき係官が空間を完全に分けた分煙か全席禁煙の店か調査し、煙が禁煙席に流れ込まない
ことを確認出来た店では「受動喫煙ゼロの店」と表示出来る制度を始めた。その姿勢は評価
出来るが、自由に吸える喫煙空間で、従業員は極めて有害な副流煙にさらされている。
決して「受動喫煙ゼロ」ではない。
働く店員の健康を守るためには、全面禁煙規制しか残された道はない。だが、喫煙者の多い日本
の社会で一気に厳しい規制を実施するのは難しい。あくまでも経過処置として、全席禁煙を
確認出来た店には「健康増進法適合」認証シールを交付、店頭表示を義務付ける。こうした認証
表示制度を多くの飲食店に定着させるには、公的機関による広報活動が欠かせない。 2005年2月に
世界保健機関主導の「たばこ規制枠組条約」が発効した。今後は条約批准国としての姿勢が
問われるだろう。タバコ副流煙粉塵による疾病の防止は、国民に対する行政の責務に他ならない。
論説 室内全面禁煙は世界のルール
・・・分煙推進のタバコ会社に迎合した神奈川県条例は不当
認証シール表示の普及を
執筆 2005年3月 医学博士 宮本順伯
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