タバコ副流煙に気をつけよ


  

おタバコをお吸いになられますか」、・・・「喫煙席」。多くの飲食店で毎日繰り返されている応答だ。
レストランやカフェ店で、タバコを吸わないが、喫煙するパートナーと楽しげに会話を弾ませている光景も
よく見かける。しかし、この人達には、話しの間にもタバコの先から放散される煙(副流煙)を吸い込んで、
がんを引き起こす物質を自分の肺に少しずつ沈着させているという感覚が全くない。

「愛煙家」なる言葉が使われているが、他の国では聞くことのない、タバコの有害性を忘れさせる販売目的の
造語だ。発がん性が強く心筋梗塞など重い病気を引き起こす、幼児の突然死さえ起こしかねないタバコの
煙をこよなく愛する人を指すのだが、喫煙と愛情とは全く相反する行為であり、使用を避けたい言葉である。

医療の世界では、こうした人々を「タバコ依存症患者」と呼ぶ。麻薬との違いは麻薬が非合法であるのに対し、
タバコは合法的な中毒性薬物というだけだ。だが、依存性の面ではタバコの方が麻薬より強い。

日本は世界最大のタバコ輸入国である。男性の喫煙率は世界一といわれ、若い女性の喫煙率も、今や世界の
トップクラスに達していると考えられる。その根底にあるものはタバコに洗脳された喫煙者の無知無学である。

日本人はタバコをあくまでも個人の趣味嗜好と考えており、タバコの先から流れる副流煙が周囲の人の健康を
脅かす有害物質であるとの認識を欠く。副流煙に含まれる有害物質の濃度は、発癌作用の強いニトロソアミン
の場合、喫煙者本人が吸い込む主流煙に比較して52倍、心臓機能に悪影響を与える一酸化炭素で4.7倍、
発がん性の強いベンゾピレンは3.7倍、カドミウムは3.6倍、血管を収縮させ血流障害を引き起こすニコチンは
2.8倍も高い。副流煙は主流煙よりも低温で燃焼するために、喫煙空間では有害物質の濃度が一層高く
なっている。

喫煙者は自らの自由意思で「健康への道」を放棄しているので、周囲の人の健康まで気遣う余裕はない。
問題なのは非常に多くの非喫煙者が「私はタバコを吸わないのでタバコの悪影響を受けない」と考えている
ことである。

こうした喫煙者と非喫煙者とのタバコ副流煙についての無知、無関心が、タバコ無法社会を作り上げている。
百貨店内や地下街などでは強制禁煙が施行されており、一見、健康上の配慮がなされているように思えるが、
実は火災予防を意図した消防法による規制である。「健康上の理由」ではないということは、政府や地方
自治体は、公式には公共空間に於いて、タバコの煙が人体に著しい悪影響をもたらすものだと認定して
いないのだ。

閉鎖空間での禁煙は先進諸国では常識となっている。米国、カリフォルニア州、ニューヨーク市、カナダ、
バンクーバー市、オーストラリア諸州では特に厳しい。レストラン、カフェは勿論、カリフォルニア州では賃貸
住宅も禁煙、オーストラリアではレンタカーにも禁煙シールが貼られている。

こうした動きに対し、日本の政治家は全く無関心、どこ吹く風である。平成15年5月に施行される健康増進
法第25条で「飲食店その他の多数の者が利用する施設では、受動喫煙を防止するために必要な措置を
講ずるように努めなければならない」と定めたが、実行しなくとも何ら罰則規定はない。日本特有の総論賛成、
各論無視のあいまいな法律である。

政府や地方自治体の政策担当者の多くがタバコ依存症に罹患しているとすれば、国民のために真剣に
タバコ規制に取り組む意欲などある筈がない。麻薬中毒者に麻薬取締法の立案が出来ないことと同じで
ある。日本政府には国民の健康を守ろうという気持ちがない。もしあるとすれば、発がん性の高い有害
物質の広告、有害物質を売りさばく無数の自販機、閉鎖空間に充満しているタバコ副流煙を放置したまま
平然としていられることなど全くあり得ぬことだ。

欧米諸国、オーストラリア、ニュージランド、タイ、シンガポールなどの國で常識とされている、タバコの箱に
記載する具体的有害情報の表示義務もない。

タバコを吸わない人々の副流煙に対する認識不足も、今の憂うべき事態を引き起こしていると言える。
タバコの煙が自分たちを死に追いやる中毒性薬物として認識する、そうした非喫煙者の意識改革こそが、
問題を解決し、クリーンな健康社会を形成させる鍵となる。行政の前向きの対応も重要で、今、タバコ問題に
於いても、マナーからルールへの転換が求められている。

執筆  医学博士 宮本順伯 (2003年2月22日付産経新聞掲載論説)
(注)原文のタイトルは「たばこ副流煙に気をつけよ」
著作権は宮本順伯 および産経新聞社に帰属

 2005年12月、東京地裁のタクシードライバーが受動喫煙の損害賠償を求めた訴訟で「タクシー業者は
受動喫煙から運転手の健康を守る義務を負う」との判決が下された。この司法判断を受け、タクシー業界では
次々にタクシーの全面禁煙化への動きを見せている。2007年8月、東京で開催した第2回日本禁煙学会総会会場で、
訴訟を起こし勝訴したタクシードライバーにお会いしたが、その本人から上記掲載記事を裁判所へ提出した
ことが画期的な司法判断に結びついたと聞き、私の論説がそうした形でお役に立ったことを喜びたい。

2007年8月加筆 禁煙席ネット主宰 宮本順伯

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 マスコミ

 居酒屋の禁煙対策事情(掲載 2003年11月 居酒屋)
「受動喫煙」特集番組放映・再放映(2003年2月NHK放送)
 閉鎖空間がもたらす受動喫煙から顧客と従業員の健康を守ろう(掲載 2003年5月 月刊 飲食店経営)

分煙は不可 神奈川県の過ちを繰り返すな 論説 分煙は不可、神奈川県の過ちを繰り返すな!
  Do not repeat the mistake of the Kanagawa anti-smoking ordinance.
・・ 先進国が2003年に放棄した分煙制度を採用して何が先進的なのか
・・ 労働者の健康を無視し、制定ありきのパフォーマンスに終始した県条例
・・『純正品の効用を引用して、まがい物を販売する商人』

室内全面禁煙は世界のルール 論説 室内全面禁煙は世界のルール
 
  The indoor total smoking ban is the rule of the world.
   分煙推進のタバコ会社に迎合した神奈川県条例は不当


日本はなぜ公共施設の全面禁煙を実行できないか 
週刊誌 Among industrial countries, why Japan alone cannot establish a total smoking ban in a public place?
  
先進国中何故日本だけ公共の場所で全面禁煙が出来ないのか(故大橋巨泉氏)
喫煙飲食店での労働は危険 飲食店 喫煙OKの飲食店で働くことは危険
宮本順伯 賢い受動喫煙法の立ち上げ方 学会 「受動喫煙防止法の賢い立ち上げ方」( 禁煙席ネット 宮本順伯 )2009 於札幌 使用スライド表示
  Title: What is the best form of an anti-smoking law to create a smoke-free society in Japan? ( In Japanese )
Herald Tribune International Junhaku Miyamoto 新聞 Herald Tribune International (ヘラルドトリビューン紙掲載)
  Japan must move faster on anti-smoking laws  受動喫煙防止法の制定を急げ




禁煙席ネット情報掲示板



Smoke-free Hotel and Travel
受動喫煙防止条例  屋内全面禁煙  屋内喫煙設備撤去 鉄道車内完全禁煙  レンタカー レストラン バー 飲食店 ホテル 空港 喫煙規制
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